設計書の理由と契約書の理由
情報システムの設計書には設計の結果だけでなくその理由も記載するべきである、という考え方があります。規格やガイドラインの話ではなく現場のプラクティスのようですが、理由を重要視する法の世界から見ると、なるほどと頷けるところがあります。 ここで言う「理由」というのは、「部長がそう決めたから」とか「会議でそう決まったから」 ...
民事事件はすべてが「否認事件」
日本の刑事裁判では、ひとたび起訴されてしまえば99%が有罪判決となってしまうことは、良く知られているとおりです。もっとも、これは検察が有罪の確証を持っている事件だけを選んで起訴していることの裏返しで、問題とばかりとも言えません。さらに言えば、起訴された刑事事件の9割以上が自白事件であることも関係しています。 自白事 ...
情報システムの「許されざる危険」
刑法の領域には、「許された危険」という考え方があります。これは、社会的に有用な行為は、法益(生命や身体など)侵害結果を伴うものであっても、一定の制約のもとに許容される、という考え方です。典型的なのは、自動車運転です。自動車運転は、これを許せば年間数千人の死者が出ることは分かっていながら、これを禁止すれば社会経済がスト ...
「安全」と「安心」
「安全」かも知れないが「安心」ではない、というのはここ数年、しばしば聞かれる言葉です。本来の意味は、「安全」は客観的な意味合い、「安心」は主観的な意味合いということですが、メディアに現れるような場合は、(意識しているかどうは別にして)別の意味が込められているようです。「安心」ではないとは、客観的には「安全」だが漠然と ...
コンピュータ・プログラムと契約書
一見すると似て非なるものに思えますが、コンピュータ・プログラムと契約書には、かなりの共通点があります。いずれも「ロジックの塊」であり、それにより、片やコンピュータの動作を規律し、片や人の行動を規律します。実際、「CODE」の著者であるレッシグ教授は、サイバー空間においては「コードは法である」として、規制手段としての両 ...
法令の正式名称と略称
法令の正式名称(正しくは「題名」といいます)には、長いものが少なくありません。俗にいう「個人情報保護法」は「個人情報の保護に関する法律」、「プロバイダ責任制限法」は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」が、それぞれ正式名称です。比較的知られている法律で特に長い法令名を持つものと ...
「強い債務」と「弱い債権」
「強い債務」と「弱い債権」という表題に、違和感を抱く人は多いかも知れません。債務は義務等の不利益だから弱いものであり、債権は権利や利益だから強いものであるはず。特に、悪質な債権者による強引な取り立てや、土足で踏み込んだ(実際にはそんなことはありませんが)執行官が家財一切に差押えの封印票を貼り付けていく、といったイメー ...
民法改正と法律を「改正する法律」
法律の改正が「差分」方式で行われていることは、一般には殆ど知られていない事実の一つでしょう。例えば、2020年4月から施行予定の新民法(債権法の部分の改正法)は既に国会で成立していますが、文字どおりの新「民法」が作られたわけではなく、「第○条第1項中『△△△△』を『□□□□』に改める。」といった「差分」だけが書かれた ...
IT時代の大神通と小神通
鎌倉時代の禅僧である道元は、「不思議な力である神通には大神通と小神通がある。世間の人は火を吹いて見せるような小神通を尊ぶが、本当の大神通は、毎日ご飯を食べ、疲れれば寝るといった、人間が生きて暮らしているという当たり前のことにある」(中村元氏による)と言ったそうです。この考えからすれば、ITの世界には、「〇〇を使えば、 ...
IT業界の困ったセキュリティ事情
喫茶店等で何事か熱心に話し合っていると言えば、以前は生命保険か先物取引の営業と決まっていたものでした。しかし、ここ数年でこれらを圧倒するグループが出現しました。それは、IT事業者です。 しかも、生命保険や先物取引では、どことなくヒソヒソ話であったのが、IT事業者の場合、固有名詞や具体的数字の入ったスライド資料が映写 ...