情報システムと装置産業

IT法コラム

 「装置産業」とは、巨大な装置抜きでは事業そのものが始まらない、著しく資本集約的な産業のことです。鉄鋼や石油化学といった、重厚長大の第二次産業が典型とされていました。もう20年以上も前になりますが、あるノンバンクの役員が「ウチは装置産業だ」と喧伝していました。金融と装置産業、当時とすれば、この組み合わせは、ちょっと気の利いたコピーのように聞こえなくもありませんでした。

 しかし、今や金融は伝統的な重厚長大産業にも増して、装置産業となりました。「装置」とは、言うまでもなく情報システムのことです。三井住友銀行では、1日に最大2000万件ものトランザンクションがあると言います。これだけの取引量を(遅滞なく)こなすのは、システム無しには不可能です。否、システムがあっても、品質や性能が十分でなければ安定的な事業運営は及びもつきません。その意味で、数十年前の「情報システム以前」とは、一見同じビジネスに見えながら、その実質はまったくの別物に変容したという見方もできます。
 同じことは、金融以外の情報システムのハード・ユーザーにも言えることです。通信・放送でも、鉄道・航空でも、広域小売でも、(それが旧来の意味での「装置産業」であったか否かにかかわらず)情報システムは、事業の中核的な要素となっています。そして、情報システムに係る信頼性やセキュリティのリスクを共有する反面で、情報システムを軸とした規模の経済やサービス化にますます傾く、という等質化も進んでいるようです。
 いきなり物騒な話ですが(政治的な背景など分かりませんので、深入りは避けるとして)、先日、フィリピンでの鉱山開発に反対する武装グループが現地施設を襲撃した際、現場のパソコンを持ち去ったと伝えられました。鉱山開発は新しい意味での装置産業ではないでしょうが、パソコンをデータごと持ち去ることが、施設を物理的に破壊する以上に「効果的」であると考えた上での犯行なのでしょう。武装襲撃とパソコン持ち去りは、金融と装置産業にも増してミスマッチですが、情報依存やセキュリティという意味で、事の一面を表しているようにも思えます。