ウェブ利用に見る著作権の常識
所有権が「モノ」に対する権利であるのに対し、著作権は「情報」に対する似たような権利であると見られることがありますが、著作権の方はかなり人工的、政策的な権利です。所有権が全面的な支配権と言われるのに対し(これも美術品や廃棄物等を考えると程度問題ではありますが)、著作権では権利者の保護と公共財としての利用との間のバランスに配慮しなければならないからです。そのため、少々理解しにくいところがあり、世間では幾らかの誤解もあります。以下では、ウェブ上など比較的軽めの利用場面を念頭に、多少混乱しやすいところを挙げてみます。
公開か非公開かは無関係
著作物が公開されているかどうかは、著作権の有無とは関係ありません。むしろ著作物が公開状態で広く「使用」されることを前提に、それ以上の態様で勝手に「利用」されることから保護しようとしたのが著作権です。ここで「使用」とはウェブ上のコンテンツを単に見たり読んだりすること、「利用」とはコンテンツを複製して二次利用するようなことを指します。
おそらく、公開/非公開が著作権と何か関係していそうに思えるのは、次の二つの事情からではないかと思われます。一つは、著作物からの利益を確保する実効的な方法として、公開と代金が引き換えにされることが多いことです。これは出版ではうまく行きませんが、オンラインでのコンテンツ販売では代金を支払った者のみにダウンロードを許すことで実現できます。もう一つは逆に、著作物の秘密性を確保するための手段として、著作権が用いられることが多いことです。ウェブ上で著作物を無断で無断公開すれば、公衆送信権の侵害となって民事・刑事の責任を負いますから、秘密性を保てるというわけです。ただ、これらはいずれも、著作権が本来想定している状況ではありません。
価値の有無や程度も無関係
著作物にある種の価値(芸術的、学問的、経済的……)があるかどうかも、著作権の有無とは関係ありません。ひとまず、素人が撮影した写真や子供が描いた絵にも一応の著作権が認められるのが原則です。つまり、例えば個人のブログであっても、その中の文章、写真、イラスト……には、著作権の保護が及ぶわけです。もっとも、あまりに「ありふれた」ものであるために最低限の創作性すら持っていない、というレベルになれば、そもそも著作物とは認められなくなりますから、著作権も発生しないことになりますが。
ところで、著作物の価値は、著作権の有無とは関係がない一方で、その著作権が侵害された場合の損害賠償とは大いに関係があります。著作権の侵害は確かに違法ですが、利用の差止めはともかくとして、損害賠償義務の発生にはそもそも損害のあることが大前提です。価値の低い著作物の著作権が侵害されても(賠償の対象となる)損害は雀の涙ほど、あまりに価値の低い著作物の場合には極論「侵害はあるが損害はゼロ」ということもあり得ます。著作権侵害の場合の損害については推定規定がありますが、元々の価値が低ければ結局は同じことです。こうした意味では、著作物の価値は大いに関係があることになるわけです。
クレジットの有無も無関係
著作権は、著作により当然に、つまりいかなる方式(登録や表示等)も要さずに発生しますので、いわゆるクレジットが入っているかどうかも著作権の有無とは関係ありません。この「いかなる方式も要さず」のことを無方式主義といい、現在では日本を含めた殆どの国が採用しています。「© 著作権者の氏名 最初の発行年」という形のクレジットは、もともと万国著作権条約が定めた簡易的な「方式」要件だったわけですが、著作権大国であるアメリカが無方式主義のベルヌ条約に加入したことで当初の意味はなくなりました。現在では、極めて特殊な法制の国(ベルヌ条約非加盟かつ万国著作権条約加盟である方式主義国)であるカンボジアとラオスにおいてしか意味はありません。
ただ、アメリカでは「著作権があるとは知らなかった」(善意の侵害)という弁解を退ける効果がありますし、他のどこかの国で何らかの効力を付与されてないともか限りません。そのためかどうか、現在でもウェブページやコンテンツにはクレジットが入っていることが通常です。また、(権利が発生しないあるいは消滅した)パブリックドメインや(権利の所在が不明となっている)孤児著作物ではないことを事実上明らかにするという効果はありますので、実務上は無関係とも言えないものかも知れません。
少し変えても侵害に変わりない
ウェブ上から持ってきたコンテンツを加工するような場合が典型ですが、著作物をそのまま利用するのでなく、少し変えて利用しても侵害であることに変わりありません。と言うより、「少し変える」という行為自体が、著作者人格権としての改変権、狭義の著作権としての翻案権の侵害となります。そして、出来上がった著作物には、(それがひとまず生かされたとしても)元の著作権者の権利が付いて回ります。著作物を「リスペクト」したり「インスパイア」されたりして真似るのも、少なくとも法的には侵害であることが殆どです。
もっとも、元の著作物を利用したとは言えないほど、換骨奪胎してしまった場合は別個の著作物となり得ます。これは、見方を変えれば、著作物から(著作権で保護される対象ではない)アイデアを抽出し、そのアイデアに基づいて一から創作したと評価できるからです。リバース・エンジニアリングに基づく別製品の制作も、これと同様に理解することができます。本歌取りやパロディについては議論もあり、事実上黙認されることも多いようですが、程度を超えるものは法的に認められていないのが現状です。このあたりは法律の硬直的な側面が出てしまっているように思われます。
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