納入物の著作権の帰属

知的財産権

 経産省のモデル契約書における納入物の著作権(第45条)は、ベンダ帰属、ユーザとベンダの共有、ユーザ帰属の三論鼎立となり、JISAのモデル契約書よりは柔軟になりました。しかし、「汎用的に利用が可能なプログラム」(これも範囲が良く分かりませんが)はともかく、システム本体の著作権をベンダに留保させることには、少々違和感があります。もちろん、これは単にベンダの利益を図ったものではなく、ソフトウェアの再利用を促進するという大義名分があります。そして、この再利用は一つの政策提言でもあるわけですが、どこまで実情に即したものか疑問が残ります。

 その1。第41条の規定や、「ベンダに著作権を帰属させたとしても、秘密保持義務を課すことで、ユーザのノウハウ流出防止を図ることが可能である。」との解説からも分かるように、必ずしも再利用がユーザの利益を害することにはならい、という前提が置かれています。しかし、本来、情報システムに化体されたユーザの業務ノウハウを利用するだけで、秘密保持義務違反になり兼ねないのです。それなのに、表現そのものを丸々再利用しながら秘密保持義務に違反しない場合がどれだけあるのでしょうか。ユーザが多大の時間とお金をかけてカスタムメイドの情報システムを開発するのは、それによって事業の差別化を図りたいからです。ところが、それが容易に同業他社に再利用されるとすれば、ユーザは何のためにシステム開発したのか分かりません。
 その2。ユーザは、当該システムを保守を繰り返しながら使用するのですから、著作権があるに越したことはありません。他方、ベンダは、どこまで著作権が必要なのでしょうか。開発された情報システムは、ベンダにとっても「資産」です。そこには、業務プロセスや情報システムの専門家としてのベンダのノウハウが詰まっています。ですから、将来、類似の開発を行うに際しては、それを参考にすることは大いにあり得ることですし、また、そうすべきでもあります。しかし、それはせいぜいドキュメントして「参照」するだけで、設計書にせよソースコードにせよ(著作権が必要になるような)切り貼りをすることは考えられません。「カスタム」色が強すぎて、たとえ一部であっても、そのまま使えるようなものではないのです。著作権があれば、権利侵害を憂うことなく、安心して「参照」することができますが、防御策としてはあまりに高くつきます。逆に、ベンダが自己のノウハウの再利用のための許諾を受ける、ということも考えられるかも知れません。

 もっとも、ならばユーザが著作権を持つべき、というほど事は単純ではありません。このあたりは、別稿に譲ります。