情報システムの法的保護

知的財産権

 プログラム、すなわち「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」に著作権法上の保護が及び得るのは、以前に述べたとおりです。では、情報システムを構成する他の要素には、どのような保護が予定されているのでしょうか。

 まず、設計書やマニュアルのようなドキュメントがあります。これは明らかに「プログラム」ではありませんから、創作性等の要件を満たす場合に通常の著作物として保護されるにとどまります。したがって、著作権法47条の3の利用権はドキュメントには及ばず、これだけでは片手落ちになる危険があります。黙示の利用許諾が認められる場合が多いでしょうが、正しくは契約上の考慮が必要です。
 ハードウェアやネットワークなどのインフラは、それ自体には所有権以上の権利は発生しませんが(半導体集積回路のような特殊な例外はありますが)、その構成や設定は、ドキュメント化されている限り、著作権の対象となる余地があります。ただ、設定値であるデータの羅列は、創作性の余地がなく、秘密保持契約のようなもので事実上保護していくしかない場合が多いと思われます。
 意外に厄介なのがデータベースです。データベースにも、「その情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するもの」には著作権法上の明示の保護が及びます(また、創作性に欠けても「費用や労力」の対価として法的に保護される場合もあります)が、これは(それ自体が著作物であったりなかったりする)データを組み合わせた「編集著作物」の一種ですから、あくまで実データの入ったデータベースを意味します。つまり、データベース・レイアウトという「入れ物」は、ここで言う「データベース」には含まれません。
 もっとも、SQLで書かれたCREATE文の集合は、これを実行するとテーブルの作成という「一の結果」が生じるので、「プログラム」と言って良いでしょう。しかし、単なるデータベース・レイアウトの定義が「一の結果」を生じさせると言うのは無理がありますから、これはドキュメントとして通常著作物の範疇にとどまると思われます。しかも、レイアウトという背後のアイデアが決まると、ほぼ一義的に表現が出来上がってしまいますから、果たして著作物としての創作性が認められるか、心許ないところです。この点は、業務系でない、システム色の強いドキュメント全般に言えることですが。