契約書には必ず契約期間が必要なのか
多くの契約書には、「契約期間」というものが定められています。契約の有効期間というほどの意味ですが、固定の期間のものもあれば、一応の期間はありながら自動更新となっているものや、中には「解除するまで」などというものもあります。では、およそ契約書には必ず契約期間が必要なのでしょうか。直観的な答えは「ノー」なのですが、その理由には意外に難しいところがあります。難しいのは、そもそも契約期間が意味するものが、実ははっきりしないからです。
契約の有効期間は区切れない
ひとまず契約期間は契約の有効期間だと書きましたが、本当にイコールなのでしょうか。このあたりは、法律の教科書を見ても、歯切れが良くありません。なぜかと言えば、契約の有効期間自体が、はっきりと期間で区切れるようなものではないからです。特に、終期の方ははっきりしません。大抵の契約では、業務やサービスの履行が終わっても、支払は少し遅れますし、その後も担保責任は続きますし、秘密保持義務はもっと長く続きますし、管轄合意などはいつ終わるのかも良く分かりません。
結局のところ、契約の有効期間というのは、はっきりと期間で画されるものではなく、さまざまな権利義務の束である契約で、まだ効力の残っている範囲がだんだんと減っていくだけだということです。逆に言えば、解除などで打ち切られない限り(それでも損害賠償義務が残ったりしますが)、契約の効力がゼロになることは(ほぼ)ない、と考えることもできます。
いわゆる「契約期間」とは何なのか
それでは、契約書に書かれている「契約期間」とは何なのか、と言えば、「その契約の主な権利義務の通用期間」ということです。それを契約期間と呼んでいるわけです。ここで「主な権利義務」というのは、金銭の支払ではない方、つまり、サービスや賃貸や利用許諾や秘密保持などを指しています。それらに対して、サービス期間、賃貸期間、利用許諾期間、秘密保持期間があり、それが契約期間の正体というわけです。
ところが、それを契約期間と呼ぶとすると、前に例示した支払や担保責任など、そこからはみ出る部分が出てきてしまいます。そこで、その矛盾を解消するために、それらは契約の余後効であると説明してみたり、念入りに存続条項を置いてみたりするわけです。契約期間をめぐって実務家が感じるモヤモヤの多くは、簡単に言えば、このようなカラクリで生じてきています。
契約期間の要る契約/要らない契約
ここまで来ると、表題の疑問には半ば答が出ています。「その契約の主な権利義務の通用期間」が必要であれば必要で、不要であれば不要である、ということです。サービス契約や賃貸借契約や利用許諾契約や秘密保持契約の場合は必要、売買契約は不要な契約の代表でしょう。売買契約では、納期があれば足ります。では、請負契約はどうでしょうか。役務提供の側面を考えれば契約期間がありそうですが、期間内のどこで作業をしてもしなくても最後に納期に間に合えばそれで良いと考えれば、やはり不要です。無理して期間を設けても、納期に遅れたらいちいち契約期間を変更するのか、といった問題が出てきてしまいます。
ただ、システム開発契約では、少し違った考慮が必要です。それは、ユーザとベンダの協働が必要であるため、「納期に間に合えばそれで良い」とは言えないからです。むしろ、納期に所定の品質のシステムを納入するためには、期間内のどこでもスケジュールどおりの働きが求められます。そこで、期間の概念を導入する余地が出てくるのですが、終期を画する契約期間と区別するため、作業予定期間やスケジュールなどとしておくのが通常の実務です。
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