中間事業者の契約問題

IT法務

 IT系の事業に関わる契約は、商流が長くなることが少なくありません。この種の契約には、委託者にとって受託側の業務実態が見えにくくなるとか、中間事業者が破綻すると商流全体の崩壊につながりかねないとか、商流の中間に「中抜き」のつもりで入った事業者が思わぬ責任を背負いこむとか、さまざまな問題点があります。
 ここで考えてみたいのは商流の中間に位置する事業者(典型的には、ユーザと二次請け事業者の間に入る元請け事業者)に特有の契約問題です。このような中間事業者は、一つの案件について、上流側(元請け事業者の場合は対ユーザ)と下流側(同じく対二次請け事業者)の二つの契約を締結することになります。この二つの契約の条件の違いをめぐる問題です。

間に入って割を食う「板挟み」契約

 まず、中間事業者の立場で是非とも避けたいのは、上流側の契約条件より下流側の契約条件の方が不利になることです。この場合、一種の「板挟み」に陥って、自身が割を食うことになります。例えば、上流側では免責なしとされている事故について、下流側では免責ありとされている場合です。この場合、たとえ事故の責任が二次請け事業者にあっても、ユーザに支払った損害賠償金を二次請け事業者に求償することはできず、自己負担せざるを得なくなってしまいます。
 元請け事業者であれば、二次請け事業者より交渉力が強いのが普通ですから、注意すればこのようなことを防ぐことは難しくありません。しかし、下流側の事業者が競争力のある製品・サービスを有する有力な事業者で、その代理店のような立場で商流に入る中間事業者の場合は話が変わってきます。ユーザとの交渉でこの有力事業者の求める厳しい条件を呑んでもらうことができなければ、やはり「板挟み」状態となってしまいます。
 また、単なる契約条件の問題ではなく、取引の性質上、避けがたい場合もあります。例えば、ユーザから請け負った開発を、複数の事業者に準委任として再委託するような場合です。二次請け事業者に仕事の完成を想定できるような形で業務を切り出せるのであれば、請負を条件にすれば済むわけですが、マネジメントの相当部分を自社に残すような場合、切り出された業務は労務として準委任(あるいは派遣)とせざるを得ません。そのマネジメントがあるからこそ報酬が高くなり、かつリスクコントロールも可能になる、という理屈ではあるのですが。

一見公平だが問題もある「ミラー」契約

 以上から、上流側の契約条件と下流側の契約条件は、最後のケースを除けば、少なくとも同等になっている必要があります。そのような状態となっている契約の条項を「ミラー条項」などと呼ぶことがあります。このような契約条件は、一つの取引から生じる利益や負担を商流に連なる関係者に適正に配分するものとして、商道徳上も好ましいものと言うことができます。ただし、注意を要する点はあります。
 一つは、上流側と下流側のいずれの契約についても、自ら条件提示する場合(同じひな型を使うのが典型)です。この場合、提示した条件はあくまで提示する側の「上限」にすぎず、そのまま締結できる保証はありません。そのため、どちらかの契約で提示した条件を貫徹きなければ、「板挟み」契約と同様のことになります。「契約交渉で平均的に負ける量」の2倍のアロワンスが必要です。当然、交渉力が弱ければ、それだけ必要なアロワンスも大きくなります。
 同じようなアロワンスは、契約締結後にも必要になります。契約後にトラブルが起きて、上流側と下流側で同じ契約条件に従って解決を試みる場合、それが訴訟であれ、訴訟外の交渉であれ、同じ内容で決着できるとは限りません。ユーザとの訴訟(交渉)では想定どおりの結果を得たが、再委託先との訴訟(交渉)では想定を下回り、結果として「割を食う」可能性は残っているわけです。

行きすぎると害になる「欲ばり」契約

 以上のとおり、上流側の契約条件と下流側の契約条件には適切なアロワンスがあるのが望ましいということになります。しかし、行き過ぎると、交渉が厳しくなって契約締結そのものの障害となってしまいます。
 例えば、損害賠償や解除の条件など、必要もないのに一方当事者のみに有利な特約が付されているといった契約は、一種の「欲ばり」契約で、ひどく嫌悪されます。形式的には対等であっても、他方当事者から行使する場面がほとんどなく実質的に不対等というならまだしも、形式的にも不対等というのでは、取引のパートナーとしての資質を疑われる場合もあり得ます。
 また、あまりに不利な条件を押し付けると、契約交渉にかかる事実上の問題ばかりでなく、下請法への違反や優越的地位の濫用を問われる場合が出てきます。元請け事業者が一般的に交渉力の劣る下請け事業者に対し、ユーザから求められた不利な契約条件に、さらに大きなアロワンスを乗せて契約締結を迫るなどすると、そのリスクが大きくなってきます。