サービス・レベル・アグリーメント(SLA)による品質の担保

IT法務

 サービス・レベル・アグリーメント(Service Level Agreement)とは、あるサービスを提供する事業者(ベンダ)とその利用者(ユーザ)の間で、サービス契約に付随して結ばれるサービスレベルに関する合意をいいます。ここでいうサービスレベルは、広くサービスの定義自体、範囲・内容、品質、サービス結果を含みますが、通信やサーバのサービスにおける速度や可用性に関する数値目標などが良く知られています。もともとは、品質に問題の多かったそれらのサービスの黎明期に差別化の手段として普及していきましたが、その意味合いは少しづつ変わってきています。

サービスレベルの保証水準

 このように、SLAは、サービス契約におけるサービスレベルの保証水準を表したものと言えます。そして、ただ保証すると宣言しただけでは信用されないため、多くの場合、この保障水準を達成できない場合のペナルティが定められていることが特徴です。しかも、保証水準のグレードごとに、段階的なペナルティを定めるというのがスタンダードになっている感があります。例えば、可用性99.99%を下回ればサービス料金の10%がペナルティ、可用性99.9%を下回ればサービス料金の20%がペナルティ、といった具合です。
 もちろん、このようなサービスレベルとペナルティの組合せを複数用意し、それぞれの価格水準を変えることもできます。そうなると、サービス契約自体のグレードということになります。外形上は似たようなサービスでありながら、グレードの異なる別個のサービスという位置付けです。ユーザは、可用性は高いが価格も高いサービス、あるいは可用性は低いが価格も低いサービス、というような品質と価格の組合せを利用目的に応じて選択することになります。

SLAと準委任との関係

 SLAが設定されるサービス契約は、法的には準委任(とは限りませんが、これと同様に品質に対する担保責任のない契約類型)に該当するのが通常です。むしろ、サービスの品質についての契約上の穴をSLAで補充している、と言った方が正確かも知れません。
 準委任では、請負と異なり仕事の完成といった結果責任は負いません。確かに、一見高度な善管注意義務は課せられますが、実際にどのような場面でその違反を追及できるのか、それほど明確ではありません。期間報酬の返還義務がないことや、実務的に損害の立証が相当に困難なことを考えれば、実際のところ違反を問えるのは、サービスそのものが全く途絶したに等しい場合に限られてしまいそうます。やや皮肉交じりに言えば、ベスト・エフォートがベストのエフォートをしている限り結果は問われない、ベストのエフォートをしているかどうかも実際のところ良く分からない、という話が全てを物語っています。そこで、ある程度明確な基準に基づく(ごく弱い)結果責任を準委任に組み込む、そこにSLAの役割があると言えます。

誰のためのSLAか

 SLAによって品質についての一応の保証が提供され、箔がつけばベンダとしてはサービスの価値を高めることができます。他方、ユーザも、多少の「保証料」と引き換えに安心度の高いサービスを享受できるとすれば、ユーザにとってもメリットがありそうです。
 それでも、SLAはベンダ主導の枠組みではないか、というのが一般の認識のようです。良く言われるように、「可用性99.9%」と言っても1か月のうちに43分余り、「可用性99.99%」でも1か月のうちに4分余りの遮断が許される(しかも、単位期間を長くとるとますます保証は緩くなる)わけですから、数字から受けるイメージに比べると実際のサービスレベルはかなり低いと言わざるを得ません。つまりは「真の品質」ではなく「品質のイメージ」に過ぎない、だからベンダにとってのメリットが大きい、というわけです。
 特に、賃貸借の性質もあると考えられるデータセンターのように、SLAが担保責任のある契約類型のサービスに設定されている場合、この種の批判は強くなります。SLAはむしろ、基準の明確化と引き換えに、責任レベルを落とすことを正当化しているのではないか、というわけです。

ユーザにとっての担保

 ただ、もう一歩踏み込んでみると別の見方ができるかも知れません。SLAが設定されるサービスは、マス・サービスが中心です。仮にサービスレベルが低下してSLAが発動される事態となれば、大量の契約の大多数で同様のペナルティが発生することになります。そうなれば、個々のペナルティは10%や20%だとしても、ベンダとしては無視できるものではありません。「SLAが破られたサービス」という負のレッテルは、それ以上のものかも知れません。このような意味で、SLAを設定したベンダにはそれを守る誘因が生まれ、それがユーザにとって担保になるというわけです。
 ただし、これは実際にサービスレベルが計測され、基準との比較がなされていればの話です。実際には、大量のサービスレベル項目がありながら(あるいは大量であるだけに)、本当に計測しているのか(できるのか)疑わしいといった事例もあります。SLAを設定した以上は計測・報告は当然であり、マス・サービスであれば、過去の実績がオープンにされていて然るべきでしょう。それはベンダのサービスレベルにかける意思と能力の現れであり、ユーザにとっての担保としての価値を示すものです。