「取引介入型サービス」のメリットとデメリット

IT法務

 「取引介入型サービス」というのは余り聞かないかも知れませんが、本来は二者間である取引に第三者が何らかのサービスをもって介入し、三者関係になるものを指します。もちろん、そのサービスに一定のメリットがあるからこそ、ビジネスとして成立するわけですが、デメリットにも注意しなければなりません。以下に、そのようなデメリットが生じさせたトラブル例を挙げてみます。

販売代理店

 ここでいう販売代理店は、取引の代理や媒介をする者ではありません。販路拡大といった目的は同じですが、ITベンダがパッケージやその保守サービスを販売する際に、自ら商流に入ってくる(卸しの立場に立つ)第三者ベンダのようなものを指します。ベンダの中には、技術力に比べて営業力が十分でない企業がありますし、それなりの営業力を備えていても遠隔のユーザに販路を広げるには、自力では難しい場合があります。提携ベンダの信用力や顧客網を利用したい場合もあるでしょう。そのような場合に出てくるのが、ここでいう販売代理店です。以下、トラブル例です。
 Aベンダは、主力の新製品である人事管理ソフトの販売を強化するため、同種ソフトに経験の深いB代理店に営業を任せていました。期待どおり、B代理店はCユーザと大口の契約をまとめました。しかし、Cユーザは、Aベンダの提供したソフトに対するわずかの不満と、B代理店が提供した関連機器に対する大きな不満により、B代理店に対して代金総額の半額しか支払っていません。そのような状況で、B代理店は回収した代金をまず自社の関連機器分に充当し、残りのわずかのみを、Aベンダに支払ったところで止まってしまいました。
 法的に言えば、B代理店はCユーザからの代金回収の有無にかかわらず、Aベンダに対する代金支払の義務があります。しかし、CユーザはわずかとはいえAベンダが提供したソフトに不満を持っており、それを理由に検収しておらず、B代理店はそれを理由に検収しないとすれば、外形的には支払義務がないようにも見えます。Cユーザと直接のコンタクトがないAベンダは、事情が分からず、B代理店相手の交渉も、Cユーザ相手の打開も、困難なものとなってしまいます。

決済エスクロウ

 エスクロウには、いくつかの類型がありますが、ここではネットオークションでの代金決済に利用されているようなサービスを考えます。まず、買い手がエージェントに代金を預け、これを確認してから売り手は買い手に商品を送り、これを確認してからエージェントは売手に預かっていた代金を支払う、という仕組みです。これにより、売り手は商品を送ったのに代金を得られないこと、買い手は代金を支払ったのに商品を得られないことが防止できます。「同時履行」と同じようなことが実現できるわけです。以下は、事業者間の取引でのトラブル例です。
 A社とB社は、情報サイト売買の際に、仲介事業を行っていたCコンサルのエスクロウを利用しました。まず、買い手であるA社がCコンサルに代金を預け、これを確認してから売り手であるB社がA社に対してサイトの管理キーを開示しました。ところが、A社が管理キーにより対象サイトを確認したところ、売買対象であるはずの有料販売用の非公開コンテンツが想定の1割しかないことが分かりました。A社は検収を拒否してCコンサルに対して代金返還を要求しましたが、B社は非公開コンテンツは売り物ではなくサービス品にすぎないといとしてCコンサルに対して代金支払を要求しました。このような場合、エスクロウ契約上はいったんA社に返金することになっていましたが、板挟みになったCコンサルは判断しあぐねているうち、自身の資金繰りに問題を生じて倒産してしまいました。
 エスクロウは、形式的な「同時履行」を実現できるとしても、商品の品質自体を保証することはできません。非公開コンテンツが売買対象であるのに代金が支払われてしまったり、サービス品であるのに代金が返金されてしまったりすれば、エスクロウは機能しなかったことになります。したがって、トラブルの前半はエスクロウの限界なわけですが、最後の部分は余分の(そして当事者よりも信用力に乏しい)第三者を取引に招き入れたことのデメリットが出たわけです。全く同じことは販売代理店でも起きるわけで、取引介入サービスの宿命とも言えるものです。

 「取引介入型サービス」は、他にも認証、決済、保証など、様々なものがあります。これらの多くは、公的機関が関与したり、厳格な法規制の下に置かれたりしていますが、そうでないものも(脱法的なものを含めて)少なくありません。メリットだけに目を奪われるのではなく、そのデメリットとして、少なくとも、サービス事業者自身に不履行があったらどうなるか、倒産したらどうなるか、くらいは考えておく必要があります。取引の当事者が二者から三者に増えただけで、それまでにはなかったデメリットが生じてしまうのです。