データ移行契約の責任範囲

システム開発

 システム開発にデータ移行はつきものです。しかし、開発本体の契約が請負とされる場合でも、データ移行の部分だけは準委任として切り出されることがあります。ベンダとしては、移行対象データの正確性にまでは責任を持てないため、完成義務はとても負えないということなのでしょう。

 もっとも、請負だと見ても、ベンダは移行計画どおりに最終工程までやり切れば履行したことになると考えることもできますし、仮に移行後のデータの不正確性が瑕疵に当たるとしても、ユーザの提供した「材料の性質」によって生じた瑕疵として、ベンダは免責される余地があります(民法636条)。逆に、移行作業の途中で対象データに不備があることを知りながら、これをユーザに知らせてデータ・クレンジングの機会を与えることなく移行を強行してしまったような場合には、ベンダに責任を負わせる(同条ただし書)必要があるでしょう。そう考えると、ベンダの責任を準委任契約の善管注意義務という漠然とした責任の中に押し込むより、開発部分と同じ請負契約の完成義務だと言った方がスッキリするようにも思えます。
 しかし、データ移行には、ベンダがコントロールできない事柄が多すぎます。経験のあるベンダであれば、移行元データの調査はできるかも知れませんが、それですべてが分かるわけではありません。移行設計をしようにも、移行元データの構造・定義はデータの「オーナー」であるユーザにしか分かりません。本当にその定義どおりのデータが入っているかといった、データ入力の実情はなおさら分かりません。移行試行後のデータチェックでも、ベンダには「異常」であることは分かっても、何が「正常」なのかは、ユーザでなければ分かりません。請負と見た場合の完成すべき「仕事」は、「移行プログラムの作成」ではなく「データの移行」と言うほかなく(移行プログラムは納品物にすらならないでしょう。)、そうだとすれば、この意味の仕事の完成をベンダの責任とするのは、少々無理があります。
 何れにしても、ベンダとユーザの責任分解点として、対象データの調査や不整合データがあった場合の対応の方法や程度などを、きちんと取り決めておく必要があります。ユーザとしても、どんなデータが入っていようとお構いなしに、ベンダに「新システムに合うデータ」を求めるような「丸投げ」では話になりません。データ移行を、既存のデータ資産の棚卸しの機会であるというくらいの意識で取り組む必要があるでしょう。