景品表示法の優良誤認で高額課徴金

IT判例

 先日、青汁を飲むだけで容易に痩身効果が得られるかの広告をしたとして、健康食品の販売会社が景品表示法違反で1億円超の課徴金納付を命じられるという事件がありました(平成30年10月31日消表対第1259号)。報道によれば、この金額は、食品販売業者に対する課徴金としては過去最高額ということです。処分を受けた販売会社は、自社の販売サイトで有名タレントを起用した大々的な広告を打っており、約36億円の売上を上げていました。課徴金の額は、原則として違反に係る売上額の3%とされていますので、これだけの金額となったものです。この種の商品の原価率の低さを考えれば、不当な利益の大半が吸い上げられたということにはならないのでしょうが、レピュテーション低下を含めたインパクトはかなりのものがあります。
 ここまでは法令違反の悪質なケースの顛末ということで、それはそれで良いのですが、「真面目な」事業者の視点から見ても、見過ごすべきでないものを含んでいるように思われます。

景品表示法の優良誤認とは

 景品表示法は、消費者保護を目的として景品や表示を広く規制する法律ですが、このケースでの違反は、表示(広告、包装、説明書等)についての「優良誤認」などを理由とするものです。優良誤認とは、「実際のものよりも著しく優良である」あるいは「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良である」と示す表示により、消費者を誤認させることです。前者は実際の商品・サービスとの比較、後者は競合の同種商品・サービスとの比較を問題にしますが、このケースでは、実際の商品には痩身効果がないのに(より踏み込んで言えば、痩身効果を示す合理的根拠がないのに)あるかのような表示をした、という意味で前者が問題とされています。
 また、違反がある場合の処分としては、他に違反行為の差止めその他の措置命令もあります。このケースでも、課徴金とは別に、再発防止策を講じたうえ、これを役員及び従業員に周知徹底することなどが命じられています。
 詳細は割愛しますが、価格その他の取引条件について、同様の誤認を問題にする「有利誤認」という違反類型もあります。このケースでも、「毎月先着300名様限定」といった表示が実際と異なるものであったことが、違反行為として認定されています。

真面目な事業者にとっての怖さ

 優良誤認はあくまで表示を問題とするものですが、このケースのように、実態より良く見せかけた表示により顧客の注意を惹いて不当に大きな売上を上げる、といったケースが典型的な処分対象として浮かび上がってきます。それだけ見れば詐欺のようなものなのだから摘発されるのは当たり前で、真面目な事業者には関係がないと思われるかも知れません。
 しかし、詐欺などとは大きく異なるのは、事業者側が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出しなければならないことです。言わば「立証責任」が事業者側にあるわけですが、これは相当にハードルが高いことです。詐欺や罰金が問題となる場面であれば、少なくとも事業者側から積極的に弁解をする必要はなく、相当な手続保障もあります。しかし、景表法違反の課徴金は、たとえ1億円でも10億円でも、比較的簡易な行政手続により迅速に下されてしまいます(別途、取消訴訟等で争うことはできますが)。
 このケースでの実際の表示は、「おいしく飲んでスリムボディに!」、「149種類の酵素で燃焼する体に」、「野草、フルーツ、野菜、海藻の酵素を使用しており、特に野草のもつ免疫力やビタミン、ミネラルが、燃えやすい体を作り、肌の新陳代謝も促す。」といったものですが、合理的な根拠資料が必要であるのは、原材料の内容や種類数(だけ)でなく、それがあるかのように表示した痩身効果に及びます。これは予め、相当な試験や調査を行ったうえで、然るべきエビデンスを整えておかなければ不可能なことですから、負担の重さが知れます。このケースではそもそも痩身効果がなかったのでしょうが、販売会社は根拠資料を提出することもないまま(できないまま)、命令が下されています。

必要な「常識」の切り替え

 古い時代の「常識」は、そもそも売り手の言うことはイメージ先行で大げさな表現が当たり前(だから受け取る側も話半分でしか受け取らないし、そうするのが当たり前の生活の知恵である)といったものでしょう。引合いに出すのはやや気が引けますが、創業期のソニーが売り出した、当時世界最小の「ポケッタブル」トランジスタラジオは、実際には普通のシャツのポケットよりわずかに大きく、それが悩みの種だったそうです。そこで、そのラジオをセールスマンがシャツのポケットにすべり込ませて便利なところを見せられるよう、普通より少しだけポケットの大きいシャツを特注した、というのは同社の創業者自身が語る、(事業者にとって)古き良き時代のエピソードです。
 しかし、もはやそのような「常識」は通用しなくなっています(カッコの中はいまだにそうあるべきなのでしょうが)。セールスマンが現物を見せながら行っていたパフォーマンスは、いつしか現実から遊離した言葉とイメージで何百万人に発信される広告となり、「常識」は変わらなければならなくなったのです。にもかかわらず、事業者の意識は追いついてきていません。合理的根拠資料の制度が導入されたのは、平成15年に遡りますが、消費者庁のウェブサイトで公表されている違反者を見ても、さもありなんと思われる事業者と並んで名のある大手事業者が並んでいます。これを事業者が遅れていると言うべきか、法規制が厳しいと言うべきかはともかくとして、ギャップがあると言わざるを得ません。
 先ほどの説明のように、優良誤認はあくまで「表示」を問題にするものです。このケースで言えば、痩身の効果がないこと自体(それに起因する諸々の実害)が問題とされたわけではなく、痩身効果があるかのような誤った表示をしたことが問題とされたわけです。しかし、今の時代、(特にウェブの)広告その他の方法で商品についての情報を広く拡散・浸透させることは不可欠です。結果、商品のある品質や効果について経験的な確信があっても、それを客観的に示すことのできる根拠がなければ、それを表示することは許されず、それは「存在しないもの」となるわけです。どこかに線を引かなければなりませんから、政策判断として厳格な表示を求めるというのは一つの選択肢です。実際、消費者としては諸手を挙げて歓迎ということになるのですが、「真面目な」事業者にとって頭の痛い問題ではあるわけです。