リーガルチェックと法的リスク
契約書のリーガルチェックの目的は、契約にまつわる法的リスクへの対応です。リスクとは、「有利になるかも知れないが、不利にもなり得る」という不確定性を言いますから、単純な有利/不利とは話が違います。よく、リーガルチェックの際に、「出来るだけウチに有利に」と言う人がいますが、本当にそれだけのことならリーガルチェックなど要らなくなりそうです。有利にするには、(売り手であれば)代金をうんと上げれば良いだけのことで、難しい理屈は何も要らないわけですから。
もっとも、リスクの所在が有利/不利に影響を与える場合は、いくらでもあります。例えば、損害賠償の制限条項は、損害賠償を請求したり請求されたりという法的リスクに直結しますが、損害を発生させる事象が起きた場合の損害負担という経済的リスクを当事者間にいかに配分するかという問題ですから、リスクを押し付けた方が有利で、押し付けられた方が不利であるのは間違いありません。その意味では、上のような言い分にも、一理あると言えないこともありません。
ただし、代金などの有利/不利と違うところは、将来どのような損害が生じるのか、しないのかは不定であって、しかも多くの場合、当事者はこれに影響を与えることができるところです。システム開発の失敗による損害であれば、これを回避するためにマネジメント活動を行うことができます。その意味で、より良くこれをコントロールできる者(例えば、ベンダ)にリスク負担させる方が良い、という理屈があり得ます。つまり、適切なリスク配分は、当事者双方が直面するかも知れない「負のパイ」を小さくするのです。そうすると、すべての負のパイを相手方に押し付けられるほど強い交渉力を持っていない当事者は、自らコントロールしやすいリスクを引き受けることと、相手方に自らがコントロールし易いリスクを引き受けてもらうことを引き換えにする、という取引が勘定に合うことでしょう。
リーガルチェックの役割の一つは、そのような取引の可能性を提示することにあるわけです。
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