請負と委任にまつわる3つの誤解
システム開発委託契約のような役務提供型の契約では、しばしば請負と委任(正確には準委任)の区別が問題になります。請負と委任の区別は、それほど難しくない民法の基礎ですが、実務では意外なほど混乱ないし誤解が見られます。
1.委任でも成果物はあり得る
請負は成果物を作成するが、委任は作業するだけであって成果物は出てこない、というのは誤解です。確かに、仕事を完成させることが契約の内容となる請負は成果物の作成と結び付き易いですが、成果物を作成するかどうかで請負契約か否かが決まるわけではありません。
例えば、温泉の穴掘り契約は請負ですが、完成させるべき仕事は「モノ作り」に限られませんから、出来上がった穴が成果物であるなどと言う必要はないのです。逆に、弁護士が訴訟追行を受任するのは典型的な委任契約ですが、訴状や準備書面などが作成されます。これも素直に成果物と考えておけば良いことです。何が書かれるべきかは書かれる前でも後でも定まっていませんから、完成義務は負いようがありませんが、専門家として果たすべきことが果たされていなければ善管注意義務に違反する。そのことは、呼び名をどう変えてみても、変わるものではありません。
2.作業主体はどちらも受注者側
作業の主体について、請負では受注者側が主体だが、委任では発注者側が主体というのも、誤解です。同様に、請負であれば「○○作業」(例えば「外部設計作業」)となるが、委任だと「○○支援」(例えば「外部設計支援」)となるというのも、誤解です。委任であっても、受任者側が主体的に作業するのが原則で、必ずしも委託者側が主体となる作業を支援するのではありません。単に、その仕事の完成義務を負わないだけです。主体性を欠く、他人の指揮下で作業する契約類型は、雇用か派遣です。
「支援」というのは、受注者ができるだけ自己の責任を小さくとどめたいという希望の表われなのでしょうが、あまり「支援」を強調し過ぎると、偽装請負(偽装委託)を疑われかねません。発注者の受入テストを委任契約で支援する、ということはあり得ますが、契約類型としてはむしろやや特殊なのです。完成義務を負う作業と支援作業の間には、完成義務を負わない作業があります。
3.委託=委任ではない
請負と委任の区別の問題ではありませんが、「委託」と「委任」は別物です。言葉が似ているため、「委託」を「委任」の意味で使っている例が時々見られます。しかし、「委託」は法律用語ではなく、一般的に他人に作業を依頼することを意味する言葉ですから、民法上の典型契約である「委任」とも「請負」とも結び付きます。請負類型のシステム開発でも「システム開発委託契約」となっていたり、請負の契約書でも「再委託」が云々という条項があることからも、このことは分かると思います。
請負も委任も、委託者から一応独立つつ役務を提供する契約で、ただ、請負は仕事の完成義務を負うが、委任は完成義務ではなく善管注意義務の限度で責任を負うところが異なる、ということはもう一度確認されるべきでしょう。なお、契約類型の区別はあくまで実質によりますから、契約書上の名称は当事者の意識として考慮されるくらいのものです。もし、開発系の業務委託だが支援の限度としたいのなら、名称を「委任」とするよりも、完成義務は負わないとする条項を置く方が確実です。
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