協議条項とプロジェクト計画

IT法務

 協議条項という、恐らくは日本独特の契約条項があります。「本契約について疑義を生じた場合、信義誠実の原則に従い甲乙協議し、円満に解決を図るものとする。」というようなものです。日本人論で著名な山本七平氏は「日本資本主義の精神」の中で、協議条項は要らないと述べています。協議条項があってもなくても、日本人同士の契約は、結局は話し合いで決まるのだから、というのがその理由です。

 多くの法律家も、協議条項は不要であると考えます。ただし、その理由は山本氏とは違って、契約書は裁判所での判断の規範となるものであるが、協議条項はその役に立たないから、というものです。もっとも、契約書は何か事が起きたときに裁判所で機能するだけのもの、というわけではなく、事が起きないように当事者の行動を律する、言わば「導きの星」としての機能もあります。
 ただし、それは裁判所に行けば結局そのような判断を受けるのだから、という裁判規範としての担保があればこそ、というのが法律家の言い分です。協議条項で言えば、もし協議を尽くさないままに裁判に訴えても、裁判所は訴えそのものを認めない(いわゆる「門前払い」)、といった効力が前提だということです。確かに、協議条項にそこまでの効力はないでしょう。
 しかし、例えば、システム開発契約のプロジェクト計画書に書かれた規範、「次工程に入る前に、必ず前工程の完了判断を経ること」のようなものはどうでしょうか。これが裁判規範になるかと言われれば、そのプロジェクト計画書が契約内容に取り込まれているかどうかによる、というのが一応の答です。しかし、プロジェクトメンバーは、裁判所での最終審判を怖れてプロジェクト計画書に従うわけではありません。裁判所が何と言おうと言うまいと、プロジェクトを成功させるために、これに従うわけです。その意味では、厳とした規範性があるわけです。
 協議条項にも、もしかすると、そのような意図があるのかも知れませんが、山本氏は、そうしたことまで十分承知のうえで、あえて「書かずもがな」だと喝破したものでしょう。